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作成日:2011/11/21
【判例 福岡地裁H22.6】 採用内々定の取消しには、どのような責任が生じるか?



【事案の概要】

 本件は、不動産売買1賃貸、斡旋、仲介および管理等を行う会社から内々定を得ていた学生が、内々定の取消しを受けたことは違法であるとして、債務不履行または不法行為に基づいて.会社に対し、損害賠償を請求した事案である。


 会社の人事担当者は、この学生に対し、平成20年5月30日に「採用内々定のご連絡」と題する書面および入社承諾書を送付した。学生は、ただちに入社承諾書に記名、押印して返送した。人事担当者は9月25日、学生に正式な内定通知の授与は10月2日に行うと連絡した。これを受けて、学生は、採用内々定の通知を受けていた企業および最終面接を受けていた企業にそれぞれ断りの連絡を入れた。


 しかし、学生は、会社から9月30日に 「採用内々定の取り消しのご連絡」(本件取消通知)と題する書面を受け取った。

 
 本件取消通知の内容は、「さて、皆様におかれましてもご高承のとおり、昨夏以降の建築基準法改正やサブプライムローン問題、更には原油に代表される原材料、燃料等の暴騰といった複合的要因により、不動産市況は急激に冷え込み、弊社を取り巻く経営環境は急速に悪化しております。このような環境の下、弊社は中期的な事業計画を見直すこととなりました。新規学卒者に関しての採用活動についても慎重に検討して参りました。その結果、来年度の新規学卒者の採用計画を取り止めることといたしました。


 つきましては、先般、ご連絡差し上げました採用内々定の件、誠に申し訳御座いませんが、取り消しさせていただくことになりました。大変残念な結果となりましたが、何卒、弊社の事情をご賢察いただけますようお願い申し上げます。」とぃうものであった。


 学生は、本件内々定取消しについて抗議するメールを会社に送付したが、会社からは詳しい説明等は行われなかった。その後、就職活動を再開したが、翌年4月までに就職先を見つけることはできなかった。


【裁判所の判断】

@本件採用内々定では労働契約は成立しない

 会社は、 10月1日付けで正式内定を行うことを前提として、人事担当者名で本件内々定通知をしたが、内々定後に具体的労働条件の提示、確認や入社に向けた手続き等は行われておらず、入社承諾書の提出を求めているものの、その内容は、入社を誓約したり、企業側の解約権留保を認めるなどというものでもない。


 また、人事担当者が、本件内々定当時、会社のために学生との間で労働契約を締結する権限を有していなかった。この学生を含めて内々定を受けながら就職活動を継続している新卒者も少なくなかった。


 従って、本件内々定は、正式な内定(労働契約に関する確定的な意思の合致)とは明らかにその性質を異にする。正式な内定までの間、企業が新卒者をできるだけ囲い込んで、他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではない。学生も、そのこと自体は十分に認識していたのであるから、本件内々定によって、始期付解約権留保付労働契約が成立したとはいえない。


A本件採用内々定取消しは、労働契約締結過程における信義則に反する不法行為である

 会社は、経営状態や経営環境の悪化にもかかわらず、新卒者採用を断念せず、採用を行うという一貫した態度を取っていた。従って、学生は採用に強い期待を抱いていた。特に採用内定通知書交付の日程が定まり、そのわずか数日前に至った段階では、労働契約が確実に締結されるであろうとの学生の期待は、法的保護に十分に値する。


 それにもかかわらず、会社は、突然、本件取消通知を学生に送付して本件内定取消しを行っている。そして、本件取消通知の内容は、建築基準法改正やサブプライムローン問題等の複合要因によって会社の経営環境は急速に悪化し、事業計画の見直しにより、来年度の新規学卒者の採用計画を取り止めるという極めて簡単なものである。 また、学生からメールによる抗議を受けながら、本件内定取消しの具体的理由の説明を行うことはなかった。


 以上のように、会社が内々定を取り消した相手である学生に対し、誠実な態度で対応したとは到底言い難い。しかも、会社が採用内定の直前に至って、上記方針を突然変更した具体的理由は、なお明らかではない。そうすると、会社の本件内々定取消しは、労働契約締結過程における信義則に反し、学生の期待利益を侵害する不法行為を構成する。会社には、学生が採用を信頼したために被った損害について、賠償すべき責任がある。会社は、学生が被った精神的損害を填補するため慰謝料100万円を支払う義務を負う。

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